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会社名は「登記」より「商標」が命

「昔は『類似商号規制』があって、同じ市区町村で同じ業種だと似た名前は使えなかったけど、今は撤廃されたから自由に決めていいんですよね?

もしこのように考えていたら、それは非常に危険な誤解です。

登記(会社設立)が「できた」ことと、その商号を「安全に使い続けられる」ことは、全くの別問題です。 


 

1. 「登記OK」≠「使用OK」という最大の落とし穴

 

まず大前提として、2006年の会社法施行で旧商法の「類似商号規制」がなくなったのは事実です。

  • 昔(旧商法): 同一市区町村・同一営業目的での類似商号は登記できなかった

  • 今(会社法): 「同一の所在場所」で「同一の商号」でなければ登記できてしまう

つまり、極端な話、同じビル内の隣の部屋でも、同じ商号の会社が登記できてしまいます。

ここで重要なのは、登記を審査する「法務局」の役割です。 法務局は、「登記のルール(同じ住所に同じ名前がないか等)」を審査するだけで、あなたが考えた商号が、他人の権利を侵害していないかまでは審査してくれません。

その結果、「登記は無事に完了したのに、数ヶ月後に突然『名称の使用をやめてください』という警告状が届き、訴訟に発展した…」という悲劇が起こり得るのです。

 

2. 商号を規制する「3つの法律」

 

たとえ登記が完了していても、以下の法律によって商号の使用が差し止められたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。

 

① 会社法 第8条(不正目的の商号使用)

 

これは、他社の信用や知名度に「ただ乗り(フリーライド)」しようとする行為を防ぐ法律です。

  • 内容: 「不正の目的」をもって、他の会社だと「誤認されるおそれ」のある商号を使ってはいけません。

  • : 有名なA社の近くに、わざと「A社サービス株式会社」のような名前を作って、A社の関係会社であるかのように装うケース。

  • 罰則: 商号の使用差止請求、損害賠償請求の対象となります。

 

② 不正競争防止法(有名ブランドの保護)

 

これは、ある程度知られている(周知・著名)他人のブランドイメージを守る法律です。

  • 内容: 他人の**「周知」(ある程度有名)な商号と似た名前を使い、顧客に混同を生じさせる行為や、「著名」(全国的に有名)な商号を(たとえ業種が違っても)無断で使用する行為を禁止します。

  • : 全国的に有名な「ソニー」という名前を、無関係な業者が無断で使えば、ブランドイメージが傷つくだけでアウトです。

  • 罰則: 差止請求、損害賠償請求、さらに刑事罰(懲役・罰金)の対象にもなる重い法律です。

 

③ 商標法(結構忘れがちな法律)

 

上記の2つは「不正な目的」や「有名であること」が要件になることが多いですが、商標権はそれらと無関係に成立します。

会社の「商号登記(法務局)」と「商標登録(特許庁)」は全くの別制度です。

商標権は「早い者勝ち(先願主義)」で、特許庁に登録された商標には、日本全国における強力な独占排他権が与えられます。

  • 最悪のケース:

    1. あなたが「株式会社ABC」を設立(登記完了)。

    2. しかし、あなたの業種で、先に他人が「ABC」という名前を商標登録していた。

    3. あなたには不正の目的など一切なかった(会社法・不競法はセーフ)。

    4. それでも、あなたは商標権の侵害になります。

  • 結果:

    • 商号の使用差止請求(看板、名刺、ウェブサイト、全て変更)

    • 多額の損害賠償請求

せっかく育てようとした会社名が使えなくなるだけでなく、莫大なコストと信用の失墜につながります。これはスタートアップにとって致命傷になりかねません。


 

3. 法人登記の「前」に必ずやるべきこと

 

では、どうすればこのリスクを回避できるのでしょうか? 会社名を決めたら、法務局へ行く「前」に、必ず以下の調査を行ってください。

  1. 商号調査(法務局): 登記上、同一住所・同一商号がないかをチェックします。(法務局の「商号調査」や、国税庁の「法人番号公表サイト」で確認)

  2. (最も重要)商標調査(特許庁): あなたが登記しようとする商号(特にサービス名やブランド名として使いたい部分)が、あなたの事業分野で、すでに他人に商標登録されていないかをチェックします。
    J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)というデータベースで誰でも無料で検索できますが、商標の「類似判断」や「区分(事業分野)」の特定は非常に専門的で複雑です。

 

結論:会社名は「登記」より「商標」が命

 

「類似商号規制」の撤廃は、手続きを自由にした半面、「自分の身は自分で守る」という自己責任を事業主に課すことになりました。

大切な会社の商号が、将来の事業展開の「足かせ」になっては本末転倒です。

 

商号を決めたら、登記申請の前に商標調査をしてください。