弁理士に対する「懲戒請求」の話題を目にする機会が時折あります。
一般の人、そして我々同業者であっても、懲戒制度の専門家なんていう人はいません。なんとなくヤバそうな制度というくらいの認識です。なので、「懲戒処分」と聞けば、「弁理士として特許庁への手続きができなくなるような、非常に重いペナルティ」を想像するわけです。私自身も、少し前まではそのように重く捉えていた部分がありました。
しかし、日本弁理士会が行う処分(これ以外に行政処分もあって、こっちは重たいペナルティです)の実態を冷静に紐解いてみると、少し違った景色が見えてきます。今回は、弁理士の懲戒処分に対する率直な疑問について書いてみたいと思います。
最も多い処分は「退会」と「権利停止」
日本弁理士会が行う独自の懲戒処分の中で、件数として多くを占めるのが「退会」と、それに次ぐ「権利停止」です。
まず最も重い「退会」ですが、実はその処分の理由の大半は「会費の未納」です。これは、業務上の重大な過失や不正行為に対するペナルティというよりも、実質的に「本人が自らの意思で弁理士の身分(資格)を捨てた結果」と言えるケースがほとんどです。
「権利停止」=「業務停止」ではないという事実
そして次に多い「権利停止」。文字面だけを見て、「一定期間、弁理士としての業務ができなくなる」と想像していました。
ところが、被処分者のSNSを見たら、業務に全く支障がない!と書かれていて、それホント?と思ったわけです。
権利停止の内容を調べてみると、この処分は「日本弁理士会という組織内における権利の停止」であって、具体的に何ができなくなるかというと、主に以下のような内容です。
弁理士会役員の選挙権・被選挙権の停止
弁理士会の福利厚生施設の利用停止
総会での議決権の停止
お気づきでしょうか。弁理士としての日常業務(特許や商標の出願代理など)には、全く支障がないのです。(国が行う行政処分としての「業務停止」とは全くの別物です。)
懲戒請求制度の「本当の目的」とは?
懲戒請求という制度が身近になり、処分を受ける弁理士の数も増えているように見えます。しかし、実務への影響がほぼない「権利停止」が処分の中心であるならば、この制度に一体どれほどの意味があるのでしょう。
率直に言えば、現在の状況は以下のような側面が強いのではないかと感じています。
- 「弁理士会としてしっかり自浄作用を働かせ、処分を下しましたよ」という社会に対するアピール
- 何らかの不満を持った「懲戒請求者の怒りを収めるためのガス抜き(目的達成)」
もちろん、目に余る非行に対しては、国(経済産業大臣)による「業務停止」や「業務禁止」といった本当に重い行政処分が下される制度も別途存在します。そちらは間違いなく致命傷になります。
しかし、弁理士会レベルの処分に限って言えば、名前の重々しさとは裏腹に、実態は「痛くも痒くもない」ケースが多いのが実情です。