日々の業務では、世界各国の現地代理人とひっきりなしにメールが飛び交っています。時差や言語の壁は日常茶飯事ですが、先日、ちょっと背筋が寒くなるような「モヤモヤ」する出来事がありました。
ベトナムの現地代理人宛てに、意匠登録出願に関するメールを送信したときのことです。
送信直後、サーバーから「送信エラー(リターンメール)」が返ってきました。エラー自体は珍しいことではありません。しかし、そのエラーメッセージのログを解析していて、思わず手が止まりました。
office.tony88@mail.ru: host mxs.mail.ru said: 550 spam message rejected.
ベトナムの事務所のドメイン(.vn)に送ったはずのメールが、なぜかロシアのフリーメールサービス(mail.ru)の、しかも「tony88」という全く見知らぬ個人宛てのアカウントでスパム弾きにあっていたのです。
エラーの直接的な原因は、当事務所のドメイン設定(SPFレコードの重複)によるものでした。これはすぐにDNSを書き換えて対処しました。普段からウェブサイトを自作し、サーバーの裏側を触っているからこそ、この辺りの原因特定と修正はすぐに終わります。
しかし、問題の根本はそこではありません。
「なぜ、機密情報を扱うベトナム特許事務所のメールが、ロシアの謎のフリーメールに自動転送されているのか?」という点です。
考えられる可能性はいくつかあります。
一つは、現地の担当者が個人のフリーメールに便宜上転送をかけていたという(セキュリティ意識の低い)ケース。
そしてもう一つが、現地のメールアカウントがハッキングされ、悪意のある第三者によって「すべての受信メールをロシアのサーバーに転送する」という隠しルールが仕掛けられていた、というケースです。ビジネスメール詐欺(BEC)の典型的な手口ですね。
未公開のアイデアや図面を扱う私たちにとって、情報は命です。出願前にそのアイデアが漏洩してしまっては元も子もありません。
今回は当事務所側のSPF設定が厳格に機能し、ロシア側のサーバーで「なりすまし」と判定されてメールが弾かれたことで、図らずもこの不気味な転送経路が発覚しました。まさに不幸中の幸い、いや、エラーが教えてくれた警告です。
すぐに重要情報の送信をストップし、先方には「システムが乗っ取られている可能性がある」と警告を出しました。
海外とのやり取りは、相手先のセキュリティ体制まで完全にコントロールすることはできません。だからこそ、送る側が常に「何かおかしい」と気づけるアンテナを張り、ITリテラシーをアップデートし続ける必要がある。そんなことを強く実感した、少し背筋の凍る出来事でした。