自身のブランドや製品を守るため、多くの企業が活用している税関の「輸入差止申立」。一度受理されれば、全国の税関が模倣品(コピー商品)を水際で監視してくれる非常に心強い制度です。
しかし、せっかく申立てをしたのに、「明らかに偽物なのに、税関をスルーされて日本に入ってきてしまった……」という悲劇が起こることがあります。
なぜそんなことが起きるのか?
理由は税関へ事前に提出する「識別ポイント」です。
税関で確実に模倣品を止めるための「識別ポイント」の超重要な仕組みと落とし穴について裁判所と税関の役割の違いに触れながら解説してみます。
1. 「裁判所」と「税関」の違い
大前提として、裁判所がやる侵害判断と、税関がやる侵害判断は、アプローチが全く異なります。
| 場所 | 目的・特徴 | 判断のスピード |
| 裁判所 | 法律の解釈や技術的な証拠を何ヶ月もかけて精査し、権利侵害の有無を厳密に「審理」する。 | じっくり(数ヶ月〜数年) |
| 税関 | 毎日押し寄せる大量の貨物の中から、その場で権利侵害品かどうかを「調査」して見つけ出す。 | 瞬時(その場での判断が必要) |
2. 識別ポイントは100%「目で見えるもの」でなければならない
税関職員は、権利者の商品だけの専門鑑定士ではありません。また、検査の現場に「本物のサンプル」を置いて見比べられるわけでもありません。
したがって、識別ポイントは「手元にあるその貨物(偽物)だけを見て、パッと目視で判別できるポイント」である必要があります。
以下のような曖昧なポイントや、現場で確認できないポイントは、識別ポイントとして機能しません。
❌ 識別ポイントにならないNG例
「本物と比べて、偽物は全体的に作りが少し粗悪である」
「本物より、ほんのわずかに色味が薄い」(並べて比べないとわからない)
「本物より20グラムほど軽い」(現場でいちいち計量できない)
「製品の内部を分解すると、基盤の形が違う」(現場で分解はできない)
税関で貨物を止めるためには、「ロゴの3文字目が小文字になっている」「タグの裏に特定のシリアルナンバーがない」といった、視覚的にハッキリと白黒つけられるポイントを指定しないと、現場の税関職員は眼の前にある貨物が例え偽物であっても何もできないのです。
3. 【最大の罠】登録した識別ポイントと「違う偽物」は止められない
ここが今回一番お伝えしたい、最も重要なポイントです。
税関は、権利者が事前に提出した「識別ポイント」のデータに基づいてのみ、権利侵害の調査・認定を行います。
つまり、こういうことが起こります。
パターンA(差止め可能)
事前に「ロゴの横に『®(登録商標マーク)』がついているものは偽物です」と税関に提出していた。
👉 実際に「®」がついた貨物が届いた場合、税関はバッチリ差し止めることができます。
パターンB(差止め不可!)
海外の偽物業者が、新パターンの偽物を作った。今度は「®」をつけず、代わりに「ロゴのフォントを少し変えた偽物」を輸出してきた。
👉 税関職員がその貨物を見たとき、事前に登録された識別ポイント(=®がついている)に該当しないと判断します。そのため、たとえ職員が「これ、どう見ても怪しい偽物だな……」と思っても、ルール上、その場では差し止めることができないのです。
偽物業者もプロですから、次々と仕様を変えてきます。事前に提出した識別ポイントと異なる貨物が来たらスルーされてしまう。これが水際対策の最大の落とし穴です。
4. 税関でピタッと止まる!「識別ポイント」の具体例
では、実際に税関で効果を発揮する「良い識別ポイント」とはどのようなものなのか。分かりやすい例をいくつか挙げます。
① ホログラムシールの有無と見え方
本物の特徴:製品のパッケージ裏面に、角度を変えるとブランドロゴが浮かび上がるホログラムシールが貼ってある。
偽物の特徴:シール自体が貼っていない、または、角度を変えても文字が変化しないただの銀色シールである。
② 文字表記のわずかな違い(ハイフンか長音か)
本物の特徴: 型番が「X-MAG-001」のように、文字の間が「-(ハイフン)」で繋がっている。
偽物の特徴:文字の間が「XーMAGー001」のように、「ー(日本語の長音記号)」になっている。
③ 織りネーム(タグ)の縫い目の色
本物の特徴:洋服の首元にあるブランドタグを留めている糸が、生地と同色の「黒」である。
偽物の特徴:タグを留めている糸が、なぜか「白」や「透明のナイロン糸」で雑に縫われている。
このように、図解や写真付きで「ここを見てください!」と税関に登録しておくことで、税関職員も迷わず一瞬で偽物をキャッチできるようになります。
まとめ:識別ポイントは「命」。常にアップデートを!
税関の輸入差止申立は、一度受理されたら終わりではありません。
海外の模倣品グループは、常にこちらの対策をすり抜けようと新しいデザインや手口を仕掛けてきます。市場で「新しいパターンの偽物」を見つけたら、すぐに税関へ連絡し、識別ポイントを最新の状態にアップデート(追加登録)することが極めて重要です。
「目に見える明確なポイント」を税関と共有し、大切なブランドとファンを模倣品から守っていきましょう!
Customs Enforcement Support
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