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白い錠剤をどう見分ける?税関が水際で特許侵害品を即座に見破る「裏側のカラクリ」

「特許権の侵害」と聞くと、「何やら小難しそう」「裁判所で何年もかけてドロ沼の争いをする」といった印象を持っていると思います。


事実、その通りで、裁判所では、特許の文章を細かくパーツ(構成要件)に分解し、相手の製品がそれをすべて満たしているかどうかを、顕微鏡で覗き込むように慎重に、何年もかけて判断しています。当事者が納得いくまで議論を尽くすため、どうしても時間がかかるのです。


ここで、ひとつの素朴な疑問が浮かびます。
「そんなに小難しい判断を、なぜ税関は『数週間』という圧倒的なスピードでこなせるのか?」
港や空港の税関は、毎日大量に押し寄せる貨物を次々と処理しています。裁判所でさえ数年かかる高度な特許の判断を、現場の税関職員が即座にできているのは、不思議だと思いませんか?
実は、同じ「侵害判断」でも、裁判所と税関ではその手法(アプローチ)が180度違うのです。


税関がスピーディーに貨物を止められる理由、それは、「輸入されてきた貨物それ自体を見て、侵害しているかどうかをその場でイチから判断しているわけではない」からです。


税関の侵害判断は、次のような仕組み(カラクリ)で動いています。
事前に「侵害品だ」と判断を済ませた貨物と同じ『特徴』を持ったものが来たら、侵害品と見做して貨物を止める。
この「特徴」のことを、実務では「識別ポイント」と呼びます。
具体的には、貨物の輸出国、荷姿(梱包のされ方)、貨物自体の色や形、付されている型番などの情報です。


現場の税関職員は、小難しい特許の技術を理解して止めているのではなく、この「識別ポイント」という明確なチェックリストに基づいて機械的に侵害を判断しているからこそ、その場で貨物を見つけ出し、止めることができるわけです。


わかりやすい例が「医薬品」です。
医薬品の特許の多くは、「成分の組成(まぜ合わせ方)」に特徴があります。しかし、輸入されてきた貨物を開けてみても、そこにあるのは外観は何の変哲もないただの「白い錠剤」です。どれだけ目を凝らしても、内部の化学成分の特徴なんて分かるわけがありません。


科学的な成分分析を毎回現場でしなくても、こうした「識別ポイント」が一致すれば、「これはあの特許侵害品だ」と判断できるシステムになっています。


では、その識別ポイントは誰がいつ決めているのか。それが、貨物が実際に輸入されてくる前に行う「差止申立(さしとめもうしたて)」という名の事前審査です。ここで、権利者と税関が時間をかけてあらかじめ侵害の審理を終わらせています。


この識別ポイントを活用する手法は、水際対策において最強の武器になりますが、万能ではありません。メリットとデメリットが表裏一体になっています。メリット:
現場での議論をスキップできるため、迅速に侵害品をみなして排除できる。

デメリット:
事前に登録した識別ポイントに「引っかからない」侵害品が来た場合、スルーしてしまう。


たとえば、中身は全く同じ特許侵害の薬(白い錠剤)であっても、密輸ルートを全く別の国に変えられたり、カプセル型に偽装されたり、本物そっくりのパッケージに詰め替えられたりすると、事前の識別ポイントと一致しないため、税関はスルーしてしまう(侵害判断ができない)のです。


同じ侵害品なのに、差し止められる場合もあれば、すり抜けてしまう場合がある。その境界線は、この「識別ポイント」にあるわけです。


せっかく苦労して強い特許権を取得しても、水際でスり抜けられてしまっては意味がありません。模倣品を「漏れなく」差止めたいのであれば、相手の裏をかくように「識別ポイントのバリエーション」を常に充実させ、アップデートしておくことが重要になります。
「特許を取る」という法律上の手続きだけでなく、「現場でどうやって敵を捕まえるか」という運用のデザインまでセットで考えることが、水際対策の成功につながります。

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