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「エロ猫大和」はアウトかセーフか?あの炎上シーンの裏側にある、知財実務の「白と黒」

最近、YouTubeのビジネスリアリティ番組『REAL VALUE』を観ていて、思わず画面に釘付けになってしまったシーンがあります。

志願者のとある弁理士に対し、応援ゲストの楽しんごさんが着ていた「エロ猫大和」のタンクトップを指して、投資家(マフィア)陣から容赦ない質問が飛びました。

「これは知的財産権の侵害にならないんですか?」 「専門的なことを言わないと、弁理士としてどこまでやれるのか見られていますよ」

画面越しに冷や汗が出るような詰問。その弁理士は言葉に詰まり、明確な回答を出せずに番組は終了してしまいました。

一見すると、「プロなのにその場でスカッと答弁できなかった」という風に見えてしまうこのシーン。ですが、もし自分があの矢面に立たされていたら、同じように答えに詰まったと思います。

なぜなら、パロディ商標の侵害の有無をその場でパッと判断することなど、本来の弁理士の実力を証明することにはならないからです。

【問題提起】弁理士の仕事は「マルバツクイズ」ではない

視聴者の多くは、法律の専門家を「答えを知っている人(クイズ王)」のように思いがちです。「これは法律違反ですか?」「はい、違反です/いいえ、違います」という明確なジャッジを期待します。

しかし、知財の実務、特にパロディ商標のようなグレーゾーン極まりない領域において、あらかじめ用意された「客観的な正解」など存在しません。

パロディ商標がパロディとして許容されるのか、あるいは本家の商標権を侵害(または不正競争防止法違反)しているのかは、最終的には裁判所が個別の事案ごとに総合的に判断するものです。専門家であっても、その場で100%の白黒をつけることは不可能です。

【本質】弁理士の「真の実力」とは何か?

では、弁理士の本当の実力とはどこで測るべきなのでしょうか。

それは、「マルバツの正解を当てる能力」ではなく、「依頼者の利益のために、破綻のないロジック(理論付け)を組み立て、主張立証を尽くす能力」です。

弁理士は中立な裁判官ではありません。あくまで「依頼者の代理人」です。 依頼者のビジネスを守り、利益を最大化するために尽くすのが使命です。

  • もし自分が「パロディ側(楽しんごさん側)」の代理人であれば、本家とは業種が違うこと、顧客層が被らないこと、混同が生じる恐れがないことを必死にロジック化し、「限りなく黒に近いグレーであっても、白である」と主張します。

  • 逆に、もし「本家(ヤマトホールディングス側)」の代理人であれば、ブランドイメージが毀損されていること、ただ乗り(フリーライド)されていることを立証し、「限りなく白に近いグレーであっても、黒である」と攻め立てます。

状況に応じて、ある時は「似ている」と判断し、ある時は「似ていない」と判断する。そして、その判断を支えるための法的根拠とストーリーをどれだけ強固に作り込めるか。これこそが、プロとしての実務能力です。

【結び】現場のリアルと、挑戦した弁理士へのリスペクト

あの番組のシチュエーションは、事前の準備も資料もない、いわば「丸腰」の状態で意見を求められたようなものです。

弁理士の仕事は、クイズ番組でボタンを早く押してマルバツを競うようなものではありません。机に向かい、過去の膨大な判例を漁り、依頼者の事情をヒアリングし、数日、時には数ヶ月かけて1本の頑強なロジックを編み出す泥臭い仕事です。

あの場でうまく答えられなかったからといって、彼女の弁理士としての実力が否定されるべきではありません。むしろ、圧倒的なプレッシャーの中で、安易に「絶対大丈夫です」「アウトです」と言い切らなかった(言えなかった)ことこそが、実務家としてのリアルな葛藤だったのではないでしょうか。

ビジネスの現場に求められるのは、小気味いいエンタメの回答ではなく、不確実な世界で泥臭く依頼者のために戦うロジックなのです。